長野旅行記 1日目

その他

朝目が覚めたのは4時半だった。まだ日も昇らぬ早朝である。私はいつものように、周囲を見渡す。汚い部屋、スリープモードになったノートパソコン、飲みかけの珈琲が入ったマグカップ。いつものごとく座椅子でそのまま眠ってしまっていたようである。
目覚まし時計は鳴っていない。そもそも、セットすらしていない。基本的に私は朝には強い……訳では無いのだが、長年の習慣からか6時には間違いなく目が覚める。更に早く起きようと思っているなら、今日のように4時に起きるのもたやすい。余談ではあるが、普段大学に遅刻する理由はもっぱら二度寝の所為である。
さて、今日は空港へと向かわねばならない。飛行機の離陸は9時40分。それほど急ぐ必要もないのだが、どうやらチェックインは2時間前からできるという話だ。それならば、私は7時半に着きたい。そして空港をうろうろしたいと思う。
気怠い身体を起こし、出発の準備をした。着る服は既に出してある。薄汚れたジーンズに灰色の草臥れたシャツ。いつも通りだ。上着は前日少し悩んだのだが、深緑の長袖ジャケットにきめた。
というのも、今回向かう場所は長野県の野辺山。野辺山駅はJR路線で最も標高の高い駅だとうたっている。となれば、もしかすれば、少々涼しげなのかもしれない。そう思い、私は長袖を選んだ。個人的に夏場に長袖を着ることに抵抗がないというのも一因ではあるが。
荷物も既に用意してあった。といっても、換えの下着と靴下、スマートフォンの予備バッテリーだけなのだが。そこにノートパソコンとACアダプターをぶち込む。荷物は簡潔にしなければならない。
歯を磨き、顔を洗い、眼鏡を掛けた。これで準備は万端である。忘れ物は多分無いはずだ。
外に出ると、日の出が見え始めていた。まだ八月ということもあり少しだけ暑さが残っている。まだ人気は無く、鳥の鳴き声もまばらだ。少し歩き、いつものように駅に着いた。JR筑肥線から市営地下鉄、そのまま福岡空港へ。あまりに早朝なので、席に座ってうとうとしていた。
福岡空港へ着いたのは6時半位だったように思う。我ながら少々早く来すぎたとも思ったが、それはそれで色々と店などを見て回れるので良い。ただし、生粋の九州人からみて興味をそそるものがあるかと言われれば、些か疑問は残る。結局、適当な売店で朝食としてメンチカツサンドと珈琲を買った位か。
7時40分を回り、チェックインの受付が動き出した。今回乗る飛行機はかの格安航空ジェットスターである。何と中部国際空港まで8000円で乗せてくれるという。恐ろしく安い。
ただし当然ながらそれ相応の制限がある。手荷物は7kgまでで、サイズも制限される。自宅に体重計や秤が無く、鞄自体が重かった私は空港の秤の前で戦々恐々とした気持ちだったが、5.2kgという結果だった。これならばお土産にも少し質量を割けるだろう。安心だ。
手荷物検査も無事に終わり、適当に回って時間を潰す。それほど面白い物はなかったように記憶している。
何だかんだで1時間半が経ち、搭乗時間となった。私の席は後方窓際だった。外の景色を見れるので、これは運が良い。なるべく節約するために席を指定しなかったが、幸いだ。
そういう訳で、フライトである。目指すは愛知県、中部国際空港。そこからが長いのだが、節約のためだ。仕方がない。飛行機の中で印刷してきた電車・バス乗り換え計画を見直し、少々げんなりした私だった。

飛行機はあっという間に名古屋に到着した。とても早い。流石飛行機である。
私は名古屋には過去に一度行ったことがある。あの時は新幹線だったが、流石に2時間は掛かったように思う。それに比べて飛行機のなんたる早いこと。チェックインの手間などを考慮しなければ、だが。
何はともあれ、長野に向けて移動しなければならない。まずは空港からの連絡バスだ。バスの時刻表を見たら、どうやら一時間に一本出ているらしい。次のバスは20分後。予定ではこの次のバスに乗るつもりだったが、折角早く行けるならのらない手は無い。昼飯なんていつでも食える。
バスは結構な距離を移動したように思う。高速道路も使っていたようだ。私は愛知県の地理には疎いどころか全く無いレベルなので、どれだけ行ったのか分からない。ただ少なくとも、一時間近く走って刈谷というところに着いたのは分かった。全く聞いたことのない場所であるが、乗り換えさえ出来ればいいのだ。駅へと向かい、乗り換える。流石に電車の乗り方ぐらいは私にも分かる。そう言うわけで、何の路線に乗っているのかは分からなかったが金山という所に着いた。
さて、そこからが長かった。金山から中津川へ向かうのだが、これに1時間。ここから塩尻、更に進んで下諏訪だ。どこかに特急を入れたとは思うが覚えていない。ただ特急の普通席に座れたのは幸いであった。
特急列車からみた風景は、それはそれは目に優しい緑色をしていた。一面山に囲まれている。途中で長野県に入ったのであろうが、それにしてもこれは凄い。最早田舎という言葉すら不適切だ。
最初こそ大いに驚き楽しんだのだが、段々と緑ばかりに飽きてくる。スマートフォンを弄ろうかとも思ったが、現在通信制限がかかっていてまともに通じない。加えてトンネルの連続。何度も何度も圏外に陥ってしまう。さて、どうしようかと思ったとき、研究室の後輩から本を借りていたのを思い出した。
アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」である。誰もが知っている有名な作品であろう。後輩が熱心に勧めてきて、借りたのだ。私は海外作家の小説が少々苦手なため、あまり読んだことはなかった。
それで、暇つぶしに読んだのだが、これが面白いのである。内容についてはこの文章の論旨から外れるためまたいずれとするが、しかし面白い。夢中で読み進められる。これは、良い。
そんなこんなで、いつの間にか下諏訪には着いていた。この時点で17時を過ぎている。チェックインの時刻もあるので旅館へ向かわなければならない。
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地図を頼りに旅館へ向かう途中、私の目の前に広大な湖が現れた。諏訪湖である。これでもかというぐらい、海と見まごうばかりの湖は、私は初めて見た。壮大である。この感動を誰かに伝えようと思った(まず始めに浮かんだのは、ミュージシャンを目指している高校時代の友人だった)が、電波が悪い上に通信
制限もあったので止めた。
旅館を探して歩いていると、途中で信州蕎麦の店が見えた。私は蕎麦には目がない。最近では近所の蕎麦屋に週3で通う位のはまりっぷりである。嬉々として店に入った。そして夏のおすすめらしいぶっかけ蕎麦を頼んだ。蕎麦に納豆・ミョウガ・鰹節・甘エビの天ぷら・海苔を豪快に載せて出汁をかけてある。これが、非常に美味い。旅の疲れが取れたような、スタミナがつくような、そんな感じである。
食べている途中でメニュー外、壁に貼ってある紙に「大葉尽くし」というコースが見え、そちらにすればよかったと思ったのは余談である。まぁ、何にしても美味かったから問題はない。
蕎麦屋のすぐ先に、目的の旅館はあった。旅館といっても、かなりこじんまりとした宿だ。受付を済ませ、説明を聞く限り、どうやらほぼ全てセルフで行えとのこと。なるほど、どうりで安かった訳だ。個人的にはセルフは気が楽で好きである。
部屋は和室。そこそこの広さで、有線のインターネットとテレビ、エアコンがある。部屋の外に自由に使える給湯器があり、煎茶がいくらでも飲める。冷水や冷たいお茶もセルフであった。実に良い。部屋の窓からは諏訪湖が一望でき、これまたなかなか乙である。
更には、源泉掛け流しの温泉まであるというじゃないか。これは入らねばと私は向かった。温度は九重のと違い控えめで入りやすい(九重が熱すぎたとも言える)。アルカリ性なのかどうか分からないが少しぬるぬるとした感じがあった。実に気持ちが良い。
さて、これぐらいか。殆ど移動に時間を費やして疲れが溜まっている。ここは早々に寝てしまうべきか。明日が本番であるからして、体力をつけておかなければ。そう言うわけで私は23時には床に就いていた。

続く。

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