日誌:荻窪へ

その他

※この内容はノンフィクションです。

朝である。時刻にしてみれば、八時手前。それほど早くもない時間に目が覚めた。
はて、何故だろう。休日祝日は十五時間は眠るというのに。
疑問に思い携帯電話(今時はスマホ、と言うのだろう)を開いてみると、一番にとある画像が現れた。
あぁ、そうかと抜けた声が洩れる。
五月三日だ。そうじゃないか、今日は予定があった。その予定の為に体内時計が調整されたのだ。
適当に散らしてあった服に着替えた。茶色のトレーナーに擦り切れたジーンズ。上にはコートを羽織る。お世辞にも見栄えする格好ではないが、それについては問題無い。今回私はオーディエンスなのであって、最低限の礼を弁えていれば問題ないだろう。
朝食を食べようと思ったが、冷蔵庫の中は空だった。不意に背後からカップ麺の気配を感じたが、これは無視する。流石に胃へのダメージが重すぎる。
結局それからもアレが無いやらコレが無いやらでごたごたしてしまい、家を出るのがみるみる遅れた。まぁこの点については然程の影響は無いのだが、昼食が遠のくデメリットだけは考慮せねばならないだろう。
好い加減出発しようと心に決め、私は部屋の灯りを消した。

今日向かう所は東京は荻窪である。電車を乗り継ぎ乗り継ぎ一時間と少々。ゴールデンウィークなだけあって人の量は多めだ。この御時世痴漢冤罪などもあると聞く。気を付けねば。
駅を出てすぐの所に会場はあった。タウンセブンなる建物の屋上、青空の元それは行われていた。
ゴールデンウィークこどもフェスタである。
ここで「待て、貴様は子供ではなかろうこの阿呆が」などという至極尤もな突っ込みは控えて頂きたい。私は皆の知るように子供ではないし、尚且つ連れて行くような子供もいない。寂しい独り身だ。
では何故斯様な場所に来たかと言えば、そのフェスタのイベントの一つに理由がある。
『まくらなげcrew・Fcrow』
一体何の事だと考える方々が大半どころか九割九分であろう。少々、本当に少々解説を入れたい。
取り敢えず『まくらなげcrew』の方々については一先ず置いておこう。後々お話させて頂く。まずはFcrowについてだ。
Fcrowとはポエトリーラップというジャンルで活躍するアーティスト(?)だ。クエスチョンマークを付けたのは、私には厳密な分類が分からないためである。ここはお許し頂きたい。
ポエトリーラップについても私には詳しい定義などが今一つ不明だが、歌詞の内容に重点を置いたラップだと私は勝手に思っている。訂正して下さる方は是非教えて欲しい。
ではそんな曖昧にしか知らぬジャンルの歌手(歌手と言っていいのかさえ定かではないが、ここではそう呼ばせて頂く)の公演に私が赴いたかと言うと、Fcrowと私は高校時代の友人であったからだ。大学で別れてからも度々会ったりと、細々ながら付き合いがあった。このゴールデンウィークに暇であったから行ってみようという魂胆である。
話を戻そう。私は午前十一時半頃に会場に到着した。公演まではまだ時間がある。そんな私の鼻に、ふと刺激的な匂いが流れ着く。
カレーの匂いだ。
そうなのだ。カレーフェスタである。
この近辺のカレー屋が大挙して押し寄せてきているのだ。お蔭様で辺り一面カレーまみれ、インド人が闊歩しヨガを嗜む婦人が火を噴きながら目を見開いている。これは冗談である。
本当のカレーフェスタは、千円を払う事で多種多様なカレーから四つを自由に選んで食べる事ができるというものだ。
時間的にも昼食時、丁度良いので参加しよう。
カレーは本当に多様だった。しかし私にはそれ程選択肢は多くない。
そう、辛いのがダメなのだ。
おいおい冗談だろうと思われるかもしれないが、ダメなものはダメである。ただし中辛レベルまでなら何とかなるので、その辺りを吟味して選ぶしかない。幸いお茶は買ってある。きっと何とかなる筈だ。
IMG_0232
画して選ばれたのはこのような面子であった。 右下から反時計周りに高円寺グレービービーフカレー、ピーナッツチキンカレー、甘口キーマ!!自由人カレー、アズキーマカレーである。
高円寺グレービービーフカレーは濃厚で味わい深く、非常に美味しかった。スタンダードだ。ピーナッツチキンカレーはピーナッツの香りが口いっぱいに広がり、後からスパイスが追いかけてくる。甘口キーマ!!自由人カレーは甘口と銘打ってあったが、割と辛さとスパイスの主張があった。まぁまぁである。最後のアズキーマカレーはゴロゴロした具が楽しく、辛さも程よい感じでご飯が進んだ。小豆の味は分からなかったが。総じて、満足できたと感じている。
ただし空腹の胃へ突然スパイスを流し込んだので割と苦痛なレベルで胃壁に痛みが走ったが、それは別の話である。

満腹になっていると、舞台の方では何かゆる気な雰囲気が漂い出した。私もそちらへ向かう。
ゆるきゃらが、そこには居た。
IMG_0233[1]
残念ながら私は彼らを知らない。知らないが、何か妙な感じを受けた。特に左側。明らかに色物であろう。
一番右はなみすけ。中央がサイケデリーさん。そして問題の左は――トマト人間。おいネーミング。
しかもトマト人間、喋る。酒でやられたか風邪かは知らないが、声がガラガラである。それもネタにして喋っていた。
何故だか奇妙な不安に襲われたものである。

しばし時間を潰した後、遂にその時は来た。
『まくらなげcrew・Fcrow』公演である。
ここで漸くになるが『まくらなげcrew』について非常に簡単な紹介をしておこう。彼らはダンスとヒューマンビートボックスを行う集団である。ダンスはともかくもう一つは聞き慣れない(私も今回初めて聞いた)かもしれないが、恐らくボイスパーカッション的なものであろう。人間の出す声等で演奏するものだと思う。自信は無い。
始まる前にFcrowの奴が現れたので少々話をした。奴によるとFcrowが前座でメインはまくらなげcrewの方のようだ。成程納得である。
しばしの後、公演が始まった。司会の方(どうやら有
名な方のようだ)の挨拶の後、Fcrowが神妙な面持ちで出現。そして、弾ける。相変わらずである。
今回の客は本当に一般客だ。子供連れの家族が殆どである。所謂「Fcrowを見に来た人間」ではない。身構えが異なる。
そこにラップをぶち込んで盛り上がるのか、ここは腕の見せ所なのだろう。自称「国民的ポエトリーラッパー」、期待である。
IMG_0234[1]
ちなみに彼がFcrowである。スーツ姿のラッパーは異彩を放つ。
今回歌っていたのは二曲。曲名は申し訳ないが、正式な曲名を把握していない。ジェントルマン言う奴と逃げよう言う奴だ。ジェントルマン的なものは何度か既に聞いた事がある。個人的にだが、リズムが好きだ。もう一方は歌詞が素敵である。私も逃げたい。いやそう簡単に逃げる訳にもいかんのだがね。
詳しくは是非とも実際に聴いて確かめて頂きたい。
それで果たして観客はといえば、これが中々に受けていた。
これは後の話だが、カレーの販売をしていたお姉さん(おばさんでは無い、と敢えて書いておく)がかなり褒め称えていた位だ。
私としても曲数こそ少なかったが、楽しめたと思っている。

さて、次が本番だ。まくらなげcrew一行の公演である。
まずいきなりのビートボックス。人間どうすればこのような音が出せるのか、と驚かされる。何だ、喉にでも改造を施しているのかと疑いたくなるそれは、時には歌唱も交えて常人には理解が追い付かない。
取り敢えず語彙不足だが言っておこう。「すごい」
そしてダンス。女性三人が現れたが、二人はまだ子供ではないか。しかし立ち振る舞いが既に違う。オーラがある。
画してそれは人間ではなかった。いや失敬、同じ人間なのかと疑う程のキレのあるダンス。
自分には出来ない事ができる人は尊敬する私だが、今日はほとほと尊敬しっ放しである。
また頭の悪い表現で申し訳ないが、「すごい」の一言だ。
口をぽかんと開けたまま、この公演は幕を閉じた。最後には私はあらん限りの拍手をしていただろう。

その後はFcrowと昔の事について語り合っていたが、それらは非常に下らないので省かせて頂く。

何にせよ今日、ゴールデンウィークこどもフェスタに行って来て、色々と経験を得た。
世の中凄いのだ。自分には想像も出来ないモノを創り、演出し、人々を喜ばせる人々が居る。
大変な事だ。凡庸な私には到底及ばない事だ。
そんな人々に敬意の念を抱きつつ、私も励むとしよう。
ゴールデンウィークはまだ中盤、折角の休日だ。もっと楽しむとしようではないか。

終わり。

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