どうも、赤錆です。
以前さんざん考察して、結果そこまで役に立たなかった情報でも載せようと思います。
いやね、実は真空中の氷温度について考えていたんですよ。
温度分かれば昇華時間とかの計算に役立ちそうだったもんで。
あと定例会議でのお偉いさん(役員だけど技術職で頭がいい)から、
「飽和して下限温度になるから」
的なことを言われ、下限?? あるのか?? いや直感的にはあるだろうけど。
と思い色々調べてみたのです。
まず飽和水蒸気圧から考えてみた。
私、2年前にも一応技術部門の研修中に考えたことありまして、飽和水蒸気量を求める式には次のものがあるのを知ってました。
・Antoineの式[1]
e*(T)が温度T[K]における飽和水蒸気圧[bar]です。
なお定数が物質により異なり、水の場合は、
A = 4.6543, B = 1435.264, C = -64.848
です。まぁこれをもとに計算できるわけですね。
ただし適用範囲が不明。0~100℃付近はおそらく正しいとは思いますが、私の知りたいのはもっと負の領域、正確には600Pa以下で氷が昇華しだす領域です。
例えば、通常凍結乾燥をするときには20Pa程度で圧力制御します。その際20Paが全て水蒸気だと仮定すると、氷の昇華点はおよそ237K、セルシウス度に直せば-36℃程度になります。なんだか家でやった実験結果に近い気はする……。
ただこの結果がこの式だけじゃ不安だな……と思い、色々調べました。
結果色々実験式や理論式をみつけました。
・Wagnerの式[2]
これは主に臨界点付近までで良い近似を示す式のようです。なお単位は[kPa]です。
定数に関しては、
Pc = 22120 [kPa] これは臨界圧ですね。またTc = 647.3 [K] こちらは臨界温度です。
また、A = -7.76451, B = 1.45838, C = -2.7758, D = -1.23303
これだと20Pa付近の昇華点は234Kとなります。-39℃……ちょっと低すぎる印象なので、やはり低温領域の昇華計算には向かない感じです。
・Tetensの式[3]
こちらも有名な式ですね。1930年に発表されたものなのでいささか古い感じですが。
e*0 =6.1078×10^2 [Pa] これは水の三重点の圧力です。T0 = 273.16 [K] こちらは三重点の温度です。
また定数a, bは蒸発と昇華により異なってきます。
蒸発の場合: a = 17.2693882, b = 35.86
昇華の場合: a = 21.8745584, b = 7.66
きちんと蒸発と昇華で定数が異なるので、信頼性は高そうです。
20Pa付近は……237K付近ですね。おおよそAntoineの式と一致します。
・SonnTAGSの式[4]
液体の場合
固体の場合
だいぶ複雑ですが、Wagnerの式に則った形なのかな……? 解析学や数学に詳しくないのでどうにもですが。
こちらは、どうやらJIS規格の飽和水蒸気圧の算出にも使われているようです。誤差も最大で0.5%程度だそうですので、信頼性は十分かもですね。
こちらで計算した場合も、20Paの昇華点は237Kでした。
・Briggus and Sacketの式[5]
SonnTAGSの式と形は近いように思います。こちらは各定数が水の場合と氷の場合でそれぞれ定義されるようです。
水の場合: a1 = -2313.03, a2 = -164.033, a3 = 38.05368, a4 = -0.013844, a5 = 7.44654×10^-5
氷の場合: a1 = -5631.12, a2 = -8.3636, a3 = 8.2312, a4 = -0.03861, a5 = 2.77494×10^-5
適用可能温度は不明ということで、まぁこういうのもあるんだな程度ですかね。
同様に20Paで計算すると、昇華点は237K。こちらもほぼ同等ですね。
・Goff Gratchの式[6]
液体の場合
固体の場合
< br />こちら近似式のようですね。
どういう頭があればこういう式を思いつくのやら……基本はどの式も同じみたいですが、うん。
圧力の単位はhPaで出てきます。
この式での20Paの温度は242Kでした。少し高いですね。信頼性が気になるところです。
・Loweの式[7], [8]
なんじゃこりゃ……。
各種定数があって、次の通りです。
A0 = 6.107799961
A1 = 4.436518521×10^-1
A2 = 1.428945805×10^-2
A3 = 2.265064871×10^-4
A4 = 3.031240396×10^-6
A5 = 2.034080948×10^-8
A6 = 6.136820929×10^-11
圧力の単位はhPaです。そしてこの式はどうやら-50℃~50℃の範囲で有効な様子。
……-50℃~50の領域? どういう発想ででてきたんだろう。なお実際計算すると、254K程度でなにやら挙動がおかしくなってます。-19℃程度までですかね、使えそうなのは。
そういうことなので、20Paの昇華点を求めるのには使えませんでした。
・Boltonの式[7], [9]
こちらはかなりシンプルな式になります。形としてはAntoineの式に近いのかな?
単位はhPaで算出されます。なお極低温付近で発散して正負が逆転しだします。
20Paでの昇華点は234Kと算出されます。そこそこの精度だと思われます。
・AGCM5
大気循環シミュレーションモデルの式になります。
私自身このプログラムに触れておらず詳しくないため、解説ができません。申し訳ございません。
式に関しては神戸大の関様の資料[10]より引用しております。
e*(273K)は三重点圧力で611Pa、Lは潜熱です。ここで圧力帯により昇華と蒸発で異なるため、273K以上の範囲では蒸発潜熱(2.5×10^6 J/kg)、273K以下では昇華潜熱(2.834×10^6 J/kg)とします。
またRvは水の気体定数で、Rv = 461.1522 J/kg・Kとなっています。
20Paでは236Kで、比較的良いように見えますが、高温側及び極低温側はなにやらずれが大きそうです。
さて、以上9つの式を挙げてみましたが……結局どれが良いのでしょう? 特に真空での昇華点に関して。
ざっと見の字面だけ見れば、JISで採用されているSonnTAGSの式が有用そうですが……。
取りあえず各種式のグラフをざっと作ってみました。
取りあえずLoweの式が低温で変な方向にぶっ飛んでたり、Antoineの式やBoltonの式が極低温で発散して妙なことになるのはわかります。
そこで、必要な範囲だけをピックアップしてみました。
ほい。150K~270Kの、要するにマイナス温度の範囲です。
おやそれほどずれていない……? と思ったりもしますが、縦軸は対数グラフ。1目盛違うと10倍異なります。
基本は一番信頼できると思われるSonnTAGSの式に近いですが、各種式により多少のズレが見えます。
まぁそれでも私の使いたい20Pa付近であれば、Goff Gratchの式やLoweの式以外はかなり一致していそうですね。
最後に神戸大の関様に倣って、SonnTAGSの式を基準とした数値の振れを見てみましょう。範囲は73~373Kの範囲です。つまり-200℃~100℃範囲ですね。
0℃以上の、沸点に関するデータはおおむねどれも正しいようですが、0℃以下の昇華点となると、途端にばらけが生じています。
データも取得しづらい領域ですしこんなものでしょうかね……。
……結論、よくわからん!!
取りあえず237K程度と思っておけばいいでしょうかね……。
そんな感じ。ではー。
参考文献
[1] 大江 修造, Excel 蒸気圧データ アントワン式定数集 第2版, データブック出版社(2012)
[2] R. Kleinrahm, W. Wagner, Measurement and correlation of the equilibrium liquid and vapour densities and the vapour pressure along the coexistence curve of methane, J. Chem. Ther.,18, 739-760 (1987)
[3] O. Tetens, Uber einige meteorologische Begriffe, Z. Geophys, 6, (1930)
[4] D. SonnTAGS, Import New Values of the Physical Constants of 1986, Vapour Pressure Formulations Based on the ITS-90, and Psychrometer Formulae, Z. Meterol, 70-5, 340-344 (1990)
[5] F. H. Briggs, P. D. SackketRadio observations of Saturn as a probe of its atmosphere and cloud structure, Icarus, 80, 77-103 (1989)
[6] J. A. Goff, Low-pressure properties of water – from 160 to 212^°F., Trans. Am. Heat. Vent. Eng., 52, 95-121, (1946)
[7] 菅原 広史, 近藤 純正, 飽和水蒸気圧の計算誤差, 水文・水資源学会誌, 7, 440-443, (1994)
[8] P. R. Lowe, An approximating polynomial for the computation of saturation vapor pressure, J. Appl. Meteor., 16, 100-103 (1977)
[9] D. Bolton, The computation of equivalent potential temperature, Mon. Wea. Rev., 108, 1046-1053 (1980)
[10] 関 友也, 水の飽和蒸気圧に関するまとめ
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