小説:四月馬鹿

知里弥生の無気力日和

※最早エイプリルフールは過ぎてますが、4月1日は忙しかった上に自宅にネットがなかったので。あと学会要旨詰まったから気分転換に書いただけなので適当です。
※この小説はフィクションです。

四月一日である。今年度も終わり、明日からは新しい年が幕を開ける。それはどこか輝かしくもあり、そして憂鬱でもある。
「・・・面倒臭い」
小汚い研究室の一角で、欠伸をしながらキーボードを打つ女性が一人いた。赤茶けた髪を掻きむしり、眠そうに目をこすり、足下の雑多な資料を軽く蹴飛ばす。少々荒れている様子だ。
コンピューターの画面には、分光測定によって得られたスペクトルが表示されている。それをグラフとして保存し、解析し、紙に出力する。その繰り返しを延々行い、辟易していた。
やがて力尽きたのか、突っ伏すようにして机の上へ倒れ込んだ。既に製作したグラフが塔のように積み重なっており、それを見るだけで大方の人間は心中を察することだろう。
「・・・疲れた」
女性、知里弥生は生気を欠いた表情で呟いた。
時計の短針は現在十を指している。休憩にはまだ早い。作業をしなければならないが、重い身体を起こすのが億劫だ。このまま机に沈み込んで、悪魔に意識を刈り取られるのも時間の問題だ。
と、そんな弥生の怠惰を吹き飛ばすかのごとく、勢いよく扉が開いた。蹴飛ばされた扉はビリビリと振動して壁にぶち当たり、跳ね返る。それを押しのけて部屋に飛び込んでくる女性が一人。
「大変大変! 弥生さん大変!!」
弥生が騒音のする方向に顔を向けると、そこには良く見慣れた、そして異質な人物が息を切らせていた。若草色の着物に医療用の眼帯、針鼠のように尖って撥ねた長髪。弥生の後輩である霧崎流娜だった。
弥生は緩慢な動作で身体を起こし、小さく溜息を吐きながら流娜を見据えた。
「何が大変なのよ」
「ほらこれ!」
流娜が懐から取り出したのは、やたらに派手な色をした紙切れだ。その正体を弥生は知っていた。
「宝くじ。当たったの?」
「そう! 凄いの! 何と10万円!」
「へぇ、凄い」
満面の笑みを浮かべながら、誇ったような顔になる流娜。弥生はその様子を見て、ちらと自分の背後の壁を見た。そこに張られている5×7のマス目と、そこに当てはめてある数字を認識し、流娜の様子に納得する。
弥生は徐にウェブブラウザを開き、とあるサイトを検索した。そしてそこに並んでいる数字を見てから、流娜に問う。
「番号、何?」
「えー、167258だよ」
「……へぇ、本当だ。当たってる」
「え!? 嘘!?」
流娜は驚いた表情で弥生の隣に滑り込んでくる。その様子を見て、くすりと笑う。
「嘘」
「え? ……あーっ!? 弥生さん酷い!?」
悔しそうな顔で紙切れを投げ捨てる流娜を見て、弥生は満足した。退屈していたところに良い刺激である。これで昼までは作業を続けられそうだ。
「んじゃ、今忙しいから昼にね」
「ぶー……んじゃまた来ますー」
不機嫌な表情を押し付けられた流娜は、去り際弥生に向けて舌を出して部屋を後にした。
しばらくまた、キーボードを叩く無機質な音が部屋に響き渡った。

続く。

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