※この小説は一部ノンフィクションです。一部ね。
※この小説は基本的に実話:妄想=5:5くらいで構成されます。
※この小説は今後不定期に掲載しようと思います。
ひとりだ。孤独の“独”と書いて“独り”である。周囲は基本的に静かで、時折扉の向こうから人の通る足音が聞こえてくる。それ以外に音は殆ど無い。
そのような非常にしんとした、物の振動が消え去った空間に、目を閉じて深く椅子に座る人物がひとり。
「……暇ね」
そう独りごちる程何も無い状況に、少々どころではない飢餓感を覚えている。少々赤茶けた髪を掻きむしり、小さく欠伸をし、机の脚を軽く蹴る。机の上の積み重なった資料ががさりと音を立てて滑った。
それ以降は、再び静寂。
カレンダーは五月となっている。時計は七時三十八分を指差している。ノートには行列式が書き連ねられ、関数電卓は極小値を叩きだしている。目の前のコンピューターにはエクスプローラーが表示されているが、特に意味は無い。
一通り興味の持てそうなものを眺め、結局行動する意欲は湧かない。面白くも無い。
「どうしようかねぇ」
無意味に呟いた。返事は当然、無い。
窓の外から飛び込む光景も、普段と代わり映えしない。この早朝では人も見えず、ただ烏が動くばかり。
そのまま十分が過ぎた。特に変化は無い。強いて言うならば、悪魔が着々と支配力を増している位か。もっともそれは誰しもが出会ったことのある、睡魔と呼ばれる概念だが。それに抗いながら、この暇な状態で抗う意味を探し、最終的に自分のやっていることの空しさに気づいてしまうのだが。
「うん、寝よう。どうせ先生来ないし」
勢いよく立ち上がって、部屋から出た。部屋の扉の隣には雑なデザインの在室表示がある。それの自分の名前、「知里弥生」のものを在室から帰宅へと変えた。
「そんじゃ、お休み私」
自分自身にそう言い、部屋の椅子を三つ並べ、その上に倒れ込んだ。そしてそのままゼンマイの切れたおもちゃのように動かなくなる。
静寂は更に深くなり、部屋には“独り”、規則正しい寝息だけが木霊していた。
続く、かも。
コメント