小説:雑談

知里弥生の無気力日和

※この話はフィクションです。

二人の男が、大学キャンパス内のベンチに座って喋っている。
「なぁ、おい。お前好きな人いるか?」
「何だよ藪から棒に」
「いや、単純に気になっただけで」
「そういうお前はどうなんだ。言い出しっぺがまず言うべきだろ」
「俺? いるよ、最近できた」
「へぇ。誰? 同じ学年?」
「いや違う学年。ほら、この前学内でポスター発表あったじゃんか」
「あぁ、あったな」
「そいで、そこで発表してた人。量子化学の知里さん」
「あぁ、あの人ね。量子は女の人一人だから分かる」
「何というかさ、綺麗な紫の眼しててさ、良く分かんないけど幻想的じゃん?」
「それは良く分からん」
「それに、気怠い感じだったりちょっとSっぽそうだったり」
「お前結構マイナーな趣味してんのな」
「ちょこっとある隈だったりぼさっとした赤髪も良いよなぁ」
「おう、もう良い。ちょっと理解できねぇわ」
「ま、何というか? ちょっと浮世離れした感じに惚れたと言いますか」
「それなら少し分かるわ」
「で、お前はどうなのさ。好きな人いるんか?」
「俺はだな、理学部の幽霊さんだ」
「……噂の?」
「噂の」
「実在するん? あれって」
「実在するぜ? 俺はこの目で見たしちょっと喋った」
「マジかよ。どんな人?」
「いっつも和服着てて、眼帯付けてる。そんで意外にも明るくて子供っぽそう」
「え、そんな人間本当にいるのかよ」
「いるんだって。それで、美人なんだよな」
「大和撫子ってか」
「うーん、どっちかってーと自由気儘? ちょっと猫っぽい」
「ふむ。興味深いな」
「だろ……って、あれは!?」
「ん? おぉ、和服。あれ幽霊さんか?」
「そうそう! うっはー、マジか。どうしよう、声掛けちゃおうか」
「噂をすればなんとやらってやつだな。てか、確かに美人だわ。髪の毛ぼっさぼさだけど」
「それも何かギャップで良いんだろ。うー、どうすっかなぁ」
「いっちまえ。これはチャンスだ」
「よ、良し! 行くぞ……」
「……ん、ちょい待て。誰か来た」
「何だよこんな時に……!?」
「あ、幽霊さん凄い勢いで駆けてった」
「……」
「あ、めっちゃ笑顔だ。可愛い」
「……」
「あ、手繋いでるな」
「…………」
「なぁ」
「何だよ」
「今日、飲み行こうぜ?」
「……あぁ」

続く。

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